体外受精・胚移植法とは、体外に卵子を取り出し(採卵)、体外にて精子との受精を成立(媒精)させた後にこの受精卵を培養器の中で培養(胚培養)し、発育させた後に子宮内にもどし(胚移植)妊娠の成立を期待する治療方法です。
一方、顕微授精は顕微鏡下で1匹の精子を直接卵子に挿入して受精させ、数日培養した後に受精卵を子宮内へ戻す治療方法です。
体外での受精成立、胚の培養には高度な培養技術が要求され、精子や卵子、受精卵の取り扱いには深い経験と知識を要求される治療であり、生殖補助医療とされています。
1978年、イギリスで両方の卵管が閉塞したため従来の不妊治療では妊娠不可能と考えられた女性に、体外受精・胚移植法により世界で初めて女児が誕生しました。現在では、治療の対象も広がり、精子の数や運動能力に問題があり受精が困難な場合(男性不妊)、妻に精子に対する抗体ができている場合(免疫性不妊)、子宮内膜症、原因不明の不妊症などで、それぞれに応じた治療を行ってもなかなか妊娠せず、体外受精・顕微授精以外の治療法では妊娠の成立の見込みがないか、極めて低いと判断される不妊症が適応となります。
卵子の育て方は、患者さまの年齢、卵巣年齢や反応性、これまでの治療歴などを考慮して患者さまと相談しながら適切な治療法を選択していきます。
卵の育て方には、排卵誘発(卵巣刺激治療)の注射を行ったり、内服の排卵誘発剤を使用したり、排卵誘発剤を使用しないで卵子を育てる方法があります。
当院で行うことの多い排卵誘発法は以下の方法です。
卵巣から卵子をいったん体外に取り出します。これを採卵といいます。採卵は通常、静脈麻酔下で実施しますが、卵子数が少ない場合などは局所麻酔や痛み止めで行う場合もあります。
医師は超音波を見ながら経膣的に細い針で卵胞を穿刺・吸引して卵子を取り出します。
採卵は約15分で終了しますが、採卵後数時間ベッドでお休みいただきます。麻酔の影響は数時間で消失しますので、朝に採卵を行った場合、お昼過ぎには帰宅していただけますが、当日の運転やお仕事などはなさらないようにしてください。
採卵日、ご主人には精液を採取していただきます。精液は調整して良好精子を選択回収します。
こうして集めた精子を、卵子をいれたシャーレの中におよそ10~20万/mlの濃度になるよう調整して加えます。体外受精での受精率は70~80%です(すなわち、10個の卵子に体外受精を行ったら平均7~8個の卵子に受精が起こります)。しかし、精液所見に問題がなく体外受精を行ったにもかかわらず、受精率が低いケースや、稀ですが受精が成立しないケースもあります。
一方、精液所見が悪いケースは顕微鏡下で受精をおこなう顕微授精で受精をめざします。顕微授精では、1個の精子をインジェクションニードルという細い針に吸入し、顕微鏡装置のもとで卵子にインジェクションニードルを刺入し、1個の精子を卵子に注入します。顕微授精での受精率は70~80%です。
先進医療技術名を「膜構造を用いた生理学的精子選択術」と言います。
体外受精や顕微授精で精子調整をする時には、良好な精子を回収するために遠心分離機を用いたスイムアップ法を行うことが一般的です。しかし、この方法の欠点として、遠心分離により活性酸素が増加したり、精子DNAに多少のダメージを与える可能性があるといわれています。精子のダメージにより胚(受精卵)の発育に悪影響が出て、胚盤胞に育ちにくい、妊娠率が低下する、流産率が上昇するなどに関係があるとの報告があります。膜構造を用いた生理学的精子選択術(スパームセパレーター)を使用することにより、遠心分離をせずにダメージが少ない前進運動性の高い精子を回収することができ、妊娠率の向上が期待できます。
保険診療の場合、対象となる方はスパームセパレーターを希望される方で、1回以上顕微授精を実施しても移植できる胚が得られなかった、または胚移植しても妊娠せず、次の採卵で顕微授精を予定する方です。
自費診療の場合、スパームセパレーターを希望される方が対象です。ただし、精液所見によって十分な数の運動精子が回収できない場合は、体外受精を予定していても顕微授精になる可能性があります。
*保険・自費に関わらず、採卵当日の精液所見が非常に悪い方や、TESEにより精子を回収した方、凍結融解精子を使用する方は、スパームセパレーターは使用できません。
精子凍結とは、-196℃の液体窒素下で精子を凍結保存しておくことです。
採卵日の朝に精子が用意できない場合、あらかじめ精子を採取して当院で凍結保存しておき、採卵日に精子を融解して使用することができます。
凍結保存・融解による合併症は特にありませんが、凍結・融解により生存精子数が減少します。そのため、凍結した精子を使用する場合は受精方法は顕微授精となります。
採卵を保険で行う場合は「選定療養」または「保険診療」、採卵を自費で行う場合「自費診療」で精子凍結保存をおこないます。
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凍結保存の分類についての説明 | 費用と凍結保存手続き | |
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選定療養 | 保険の採卵時に使用する目的で、医療上は必要ではないが、射出精子の凍結を行う場合は、選定療養となります。 例えば、採卵日が出張と重なってしまう場合や緊張で採精できない可能性がある場合です。 |
精子凍結費用は自費ですが、保険の採卵で使用することができます。顕微授精1回分の凍結保存をおこないます。 保険の採卵に用いることを目的として行うため、精子の凍結保存および凍結保存更新手続きは夫婦(パートナー)両方の同意が必要です。 |
保険診療 | 高度乏精子症(精子濃度が500万/ml未満)と診断された方で医療上必要があると医師が判断した場合(例えば、採卵日に精子がゼロである/射精できない可能性があるといった場合)、かつ、保険診療の採卵時に使用する目的で射出精子の凍結を行う場合に保険となります。 TESE(精巣内精子採取術)を保険でおこなった場合も、凍結保存は保険診療に分類されます。 |
精子凍結費用、採卵費用ともに保険扱いです。自費診療との併用はできません。 射出精子は顕微授精1回分の凍結保存をおこないます。 精巣内精子は手術をした病院にて組織の状態を考慮し、顕微授精数回分に分けて凍結保存します。 保険の採卵に用いることを目的として行うため、精子凍結保存および凍結保存更新手続きは夫婦(パートナー)両方の同意が必要です。 凍結保存更新の手続きは保険または自費です(生殖補助医療の治療計画をたて不妊治療中である場合は保険、不妊治療中でない場合は自費です)。 |
自費診療 | 自費診療での採卵時に使用する目的で射出精子の凍結保存をする場合、自費となります。 また、精液所見が不良であったり病気の治療をしていたりなどで、将来のために精子を凍結保存しておきたい場合も自費になります。 TESE(精巣内精子採取術)を自費でおこなった場合も、凍結保存は保険診療に分類されます。 |
射出精子は顕微授精5回分の凍結保存をおこないますが、精液所見により異なる場合もあります。 精巣内精子は手術をした病院にて組織の状態を考慮し、顕微授精数回分に分けて凍結保存します。 精子凍結保存および凍結保存更新手続きは男性ご本人のみの同意が必要です。 |
受精した胚は受精後2~3日目で初期胚と呼ばれる胚に発育し、5日目には胚盤胞と呼ばれる胚に発育します。
通常の胚培養では、胚の観察は、胚をインキュベーター(培養器)から取り出して顕微鏡下でグレードの評価を行います。タイムラプス培養を行う場合は、インキュベーターから胚を取り出すことなく連続して観察することができるため、胚はインキュベーター内外の培養環境変化に曝されることなく発育をすることができ、より良いグレードに成長し、妊娠率アップに繋がる可能性があります。また、連続して胚の発育を記録できるため、移植胚の選択が容易になります。さらに、なかなか良い胚ができない方の原因を追究する手段になり得ます。
当院では、繰り返し胚盤胞に発育しなかった既往がある方、多数の胚が得られたのに胚盤胞まで育つ胚が非常に少なかった方、着床前遺伝学的検査(PGT-AやPGT-SR)のために胚の観察回数が増える方、前核異常が多い方などにタイムラプス培養をお勧めすることがあります。
以上のようにして得られた胚をカテーテル(チューブ)を用いて子宮内に移植することを胚移植といいます。
初期胚移植、胚盤胞移植、2段階胚移植があります。
移植個数は原則1個、年齢や治療回数により2個まで移植する場合があります。
移植する胚に対して、補助孵化療法を行うことがあります。
受精卵は透明帯という蛋白でできた殻に包まれています。この透明帯が厚く硬いため孵化できず、その結果着床しにくい場合があります。このような場合には移植する前に透明帯を削っておくことで孵化しやすくすることができます。これを補助孵化療法といいます。当院では、補助孵化療法として「レーザー光照射によるレーザー法」を行っております。
受精卵(胚)と子宮内膜の表面にはヒアルロン酸が結合しやすい『ヒアルロン酸受容体』が存在し、ヒアルロン酸がお互いのヒアルロン酸受容体を結び付ける役割を果たします。
子宮内にはヒアルロン酸はもともと存在しますが、着床の重要なタイミングでヒアルロン酸が不足すると着床が起こりにくくなります。そこで、胚移植用培養液にヒアルロン酸を加えることで、着床率の改善や妊娠継続率が上昇する効果を期待し、移植用の培養液としてヒアルロン酸培養液を用いる場合があります。
不妊治療・生殖医療婦人科、婦人科
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