ホーム > シート法(SEET法)
自然の妊娠では、受精卵(胚)は卵管の中で受精し、細胞分裂を繰り返しながら5~6日間かけて子宮に向けて移動し、成長した胚盤胞というステージになる頃に子宮に到着します。胚は卵管の中で成長をしながら子宮に向けてシグナルを送っており、子宮内膜はこのシグナルをキャッチして数日後に子宮に到着する胚の受け入れ態勢を整えるため着床に向けて準備を始めるのです。
このプロセスを体外受精・胚移植法の治療に応用した方法が、院長の後藤 栄が考案し開発した二段階胚移植とSEET法(子宮内膜刺激胚移植法;Stimulation of Endometrium –Embryo Transfer)です。
この表はSEET法の成績を他の移植方法と比較したものです。この研究は後藤院長が行い、アメリカ生殖医学会の論文(Fertility and Sterility :米国不妊治療専門領域でトップの学会誌)に認められ掲載されたものです(掲載年2007年および2009年)。
初回の採卵で全ての胚を凍結し、その後初めての移植で良好な胚盤胞を1個用いて移植を行った方の着床率と妊娠率を示しています。
SEET法では着床率が92%、臨床妊娠率が80%と高くなり、従来広く行われていた胚盤胞移植より、高い妊娠率となる方法であることが示されました。
SEET法では、まず受精卵を体外で5日間培養し、胚盤胞の状態まで育てます。胚盤胞にまで育ったら、この受精卵を一旦凍結保存します。この時に、この受精卵を培養するのに用いた受精卵から放出された物質(受精卵からのエキス)を含んだ培養液も別に凍結しておきます。これで治療準備完了です。移植を行う周期に、まずあらかじめ凍結しておいた胚培養液を解凍して子宮の中に注入します。この培養液に含まれている受精卵からの物質により子宮は刺激を受け、胚を受け入れやすい(着床しやすい)状態になるよう準備を開始します。そして胚培養液を注入した 2~3日後に胚盤胞を1個移植するのです。
二段階胚移植と初期胚移植の妊娠率を比較した成績です。
初期胚移植で3個移植した場合の妊娠率は30%であったのに対し、二段階胚移植で初期胚2個と胚盤胞1個(合計3個)を移植した場合の妊娠率は59.7%になり、二段階胚移植は妊娠率を大きくアップさせる画期的な治療法として注目されました(2003年頃は初期胚移植で2~3個移植する移植方法が広く行われていました)。現在では、移植胚数は原則1個になっているため、二段階胚移植はSEET法へと進化していますが、今でも二段階胚移植は、反復して体外受精や顕微授精を行っても、妊娠に至らない方に対して有効な治療法として行っています。
二段階胚移植では、まず従来の初期胚移植と同様に4細胞期の受精卵1個を子宮の中に戻します。この受精卵がシグナルを送り子宮は着床の準備を始めます。残りの受精卵は体外でさらに培養し、胚盤胞となったところで、着床の準備が整った子宮の中へ移植します。
皆さんの中には、二段階胚移植やシート法(SEET法)の名前をご存じの方は比較的多くいらっしゃることでしょう。着床率(妊娠率)を高める体外受精の治療法として、院長 後藤 栄が考案・開発し、現在は多くの不妊クリニックで用いられるようになった胚移植方法です。
比較的新しい胚移植法と思っておられる方も少なくないと思いますが、実はこれらの治療の開発の歴史は今から約20年前に遡ります。この項では、二段階胚移植とSEET法がどのようにして治療法として世にでてきたかをお話ししたいと思います。
体外受精の移植法の中に、体外受精が始まった頃から行なわれている初期胚移植と呼ばれる移植方法があります。初期胚移植では、体外で卵子と精子を受精させた後、受精卵が分裂して4~8細胞(初期胚)となったところで子宮に戻します(移植)。しかし、自然妊娠では初期胚はまだ卵管の中で発育している状態で、実際、子宮に着床する段階の胚は受精して5~6日経た胚盤胞というステージに発育した胚ですので、初期胚を子宮に移植しても妊娠率は20~30%にとどまっていました。1990年代後半頃から、培養技術の向上と新しい培養液の開発にともない、培養液の中でも約50%の受精卵を胚盤胞にまで育てることができるようになり、胚盤胞移植が新たな移植法の選択肢に加わりました。この結果、胚盤胞移植が出来た場合の妊娠率は約50%にまで上昇しました。
また、1990年初頭頃から、基礎研究の分野(マウスなどを使った研究)では、胚は卵管の中で細胞分裂を繰り返しつつ子宮へ向かって移動しながら、胚自らが子宮内膜にシグナルを送っており、子宮内膜はこのシグナルをキャッチして胚の受け入れ態勢を整え、着床に向けて準備を始めることが段々と明らかとなってきました。滋賀医科大学産科婦人科名誉教授の野田洋一先生の研究室では、野田洋一先生の指導の下、この「胚と子宮内膜のシグナル交換」に関する基礎研究が大いになされ世に発信されました。
一方、胚盤胞移植では、受精卵は受精してから5~6日間体外の培養液の中で育つので子宮にシグナルを送ることができません。シグナルがないので胚の受け入れ準備をしていない子宮に、胚移植によっていきなり胚盤胞が送り込まれてくるため、子宮内膜の着床の準備が不十分なために着床できずに妊娠につながらない胚盤胞があり、胚盤胞移植の成績にも限界がありました。
この胚盤胞移植の弱点克服する方法として、「胚と子宮内膜のシグナル交換」の概念を不妊治療に導入したのが、二段階胚移植です。当時、後藤は、滋賀医科大学大学院に在籍中に野田洋一教授の研究室で胚の研究を行い、その後、滋賀医科大学付属病院産婦人科で不妊治療のチーフとして勤務していましたが、基礎研究で既に明らかとなっていた「胚と子宮内膜のシグナル交換」の概念を不妊治療に生かす方法を模索していました。そして、患者さんに負担や副作用がない方法として考案し開発をしたのが二段階胚移植です。二段階胚移植では、まず従来の初期胚移植と同様に4細胞期の受精卵1個を子宮の中に戻します。この受精卵がシグナルを送り子宮は着床の準備を始めます。残りの受精卵は体外でさらに培養し、胚盤胞となったところで、着床の準備が整った子宮の中へ移植するのです。1999年7月、滋賀医科大学付属病院で、初めて患者さんに二段階胚移植を行いました。最初に二段階胚移植を受けたこの患者さんはみごと妊娠に成功し、患者さんは勿論、医療スタッフも歓喜に沸きました。その後、これまで妊娠できなかった患者さんが5人連続して二段階胚移植を用いて妊娠に成功しました。後藤は、2000年にこの成果を日本不妊学会で発表し、二段階胚移植は世に出ることになりました。さらに、二段階胚移植は2001年にアメリカ生殖医学会で発表、そしてアメリカの論文(Fertility and SterilityおよびJournal of Reproductive Medicine)に認められ掲載されることとなりました。
ところが、二段階胚移植は少なくとも胚を2個移植するため、多胎妊娠を完全に避けることは難しい問題でした。最近では、不妊治療ではお母さんや生まれてくる赤ちゃんの健康を考えて、出来る限り双子以上の多胎妊娠を避けるようにすることが求められます。そこで、2006年に後藤はシート法(SEET法)を考案・開発しました(英文論文発表は2007年と2009年)。
SEET法では、二段階胚移植における一段階目に移植する初期胚の代わりに胚培養液を子宮に注入することで、子宮内膜の胚の受け入れ態勢を整える治療が出来、その後に胚盤胞を移植する方法のため、移植する胚は1個に制限することができ、なおかつ、二段階胚移植と同様に高い妊娠率となる方法となりました。
胚盤胞は着床前のステージにまで発育した着床する能力が高い胚といえます。その胚の着床能力を十分に受け止められるよう、子宮内膜の胚の受け入れ態勢を整える治療としてSEET法はとても有効です。子宮側の胚の受け入れ準備が整っていないために着床できなかったということがないように、当院ではSEET法をスタンダードな治療法としてお勧めしています。また、反復して治療が不成功になってしまった方や着床障害に対して、二段階胚移植は有効な治療方法です。
当院の妊娠反応陽性者数
タイミング治療 | 人工授精 | 体外受精・顕微授精 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
2011年 | 40 | 15 | 41 | 96 |
2012年 | 107 | 57 | 189 | 353 |
2013年 | 144 | 61 | 278 | 483 |
2014年 | 160 | 82 | 410 | 652 |
2015年 | 161 | 57 | 484 | 702 |
2016年 | 176 | 80 | 485 | 741 |
2017年 | 189 | 94 | 483 | 766 |
2018年 | 158 | 68 | 503 | 729 |
2019年 | 185 | 81 | 560 | 826 |
2020年 | 191 | 110 | 523 | 824 |
2021年 | 198 | 99 | 567 | 864 |
2022年 | 99 | 88 | 601 | 788 |
合計 | 1,808 | 892 | 5,124 | 7,824 |
当院のFTの成績
2011年6月〜2021年12月に当院でFTを施行した患者さん | 461人 |
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FT後タイミングまたは人工授精で妊娠した患者さん | 167人 |
FT後の妊娠率(体外受精・顕微授精例をのぞく) | 36.2% |
当院でこれから体外受精・顕微授精の治療をお考えの方に参考にして頂くために、当院で初めての体外受精・顕微授精を受けられた方の妊娠率と、移植あたりの妊娠率のデータを以下に示します。
2011年5月6日~2022年12月31日に、当院で1回目の採卵を行い、受精卵が1個以上できた2492症例の採卵あたりの臨床妊娠率です。臨床妊娠とはエコーで胎嚢(赤ちゃんのふくろ)が見えた妊娠のことで、妊娠反応が出たのみの症例は含みません。
2011年5月6日~2022年12月31日に、当院で1回目の採卵を行い、受精卵が4個以上できた1756症例の採卵あたりの臨床妊娠率です。1回の採卵で4個以上の受精卵ができると、移植に使用しなかった受精卵は凍結保存できるため、移植を複数回できることになります。その結果、1回の採卵での妊娠率は高くなります。
2011年5月6日~2022年12月31日に、当院で胚移植を行った9172周期の移植あたりの臨床妊娠率です。この成績には、初回の移植だけでなく、複数回移植(他院での移植治療経験者も含めて)を行った方のデータも含んでいます。